Hückel分子軌道法は,以下に示すような大胆な近似を採用しているため,定量的な議論への応用にはやや難点もあるが,数学的に整った体系を与え見通しが良いので,定性的ないしは半定量的な議論についてはかなり有効である。Hückel分子軌道法は,量子化学的な概念を理解するための基本となるものであり,とくに共役化合物の性質や反応性を電子論的に理解するための手助けとなる。
σ−π分離 ‥‥ π電子は核とσ電子の作る場の中を運動すると考える。
ハミルトニアンHもσ電子による部分とπ電子による部分に分けられ,
分子軌道関数がσ部分とπ部分の積で表わされると仮定する。
一電子近似 ‥‥ π電子部分の波動関数が一電子関数の積で与えられ,π電子部分
のハミルトニアンが一電子ハミルトニアンの和で与えられるとする。
m個のπ電子からなる系については,
H(1,2,...,m) = h(1) + h(2) + ..... + h(m) (3)
であり,i番目の分子軌道ψiの軌道エネルギーεiは,
∫ψihψidv
εi= −−−−− (4)
∫ψi2dτ
で与えられる。また全電子エネルギーは被占軌道の軌道エネルギーの和として,
E = ε1 + ε2 + ..... + εm (5)
のように与えられる。
次に変分原理に基づいて,εの値が極小になるような関数を求める。
分子軌道の波動関数ψを,次のように構成原子の原子軌道の一次結合(LCAO)で表現できるとすると,
ψ = C1φ1 + C2φ2 + ..... + Cnφn (6)
式(4)は次のようになる。
任i2∫φiHφidτ + 任iCj¸∫φiHφjdτ
ε = −−−−−−−−−−−−−−−−−− (7)
任i2∫φi2dτ + 任iCj∫φiφjdτ
ここでεの値が極小となるように各係数Ciの値を決めてやれば,真の波動関数に
近い分子軌道関数が得られることになる。