簡単のために,エチレンの場合を例にとって,Hückel分子軌道の計算手順を示す。
ふたつの炭素原子のそれぞれの2pz軌道をφ1,φ2とすれば,分子軌道ψは
ψ = C1φ1+ C2φ2 (8)
と書ける。(LCAO近似)
∫φiHφjdτ = Hij (9)
∫φiφjdτ = Sij (10)
とおいて,式(7)を書きなおすと
C12H11 + 2C1C2H12 + C22H22
ε = −−−−−−−−−−−−−−−−−− (11)
C12S11 + 2C1C2S12 + C22S22
となる。さらに,
(1) すべてのクーロン積分の値は等しい。 ∫φiHφidτ = α
(2) 共鳴積分は,結合している原子間ではすべて等しく,結合していない原子間では零とする。
∫φiHφjdτ = β
(3) 重なり積分は自分自身との間を除いては零とする。 ∫φiφjdτ = 0 (i≠j)
(4) 基底原子軌道関数は規格化されているものとする。 ∫φi2dτ=1 とすると,
(11)式は,次のようになる。
C12α + 2C1C2β + C22α22
ε = −−−−−−−−−−−−−− (12)
Ci2 + C22
この式を,C1, C2についてそれぞれ偏微分し,極値を与える条件から,次の式が得られる。
C1(α-ε) + C2β = 0 (13)
C2(α-ε) + C1β = 0 (14)
連立方程式(13),(14)が,C1=C2=0 以外に根を持つためには,
|α −ε β |
| |= 0 (15)
| β α−ε|
が成立する必要がある。いま,すべての要素をβで割って
(α−ε)/β=λ (16)
とおけば,
|λ 1|
| |= 0 (17)
|1 λ|
が得られる。これを展開して解くと,λ = ±1 を得る。各々の根を式(16)に代入すると,
ε1 = α + β (18)
ε2 = α − β (19)
が得られる。ε1, ε2を式(13),(14)に代入し,規格化条件と併せて各分子軌道の係数が求められ,
ψ1 = 1/ 2(φ1+φ2) (20)
ψ2 = 1/ 2(φ1−φ2) (21)
が得られる。
【演習】 アリルの場合 (ψ=C1φ1+C2φ2+C3φ3)と ブタジエンの場合(ψ=C1φ1+C2φ2+C3φ3+C4φ4)について, ヒュッケル分子軌道を計算してみよ。
分数関数の微分の公式から
∂ε (2C1α+2C2β)(Ci2+C22) - {α(C12+C22)+2C1C2β}・2C1
−− = −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
∂C1 (C12 + C22)2
2C1α+2C2β - ε・2C1 2{C1(α-ε)+C2β}
=−−−−−−−−−−− =−−−−−−−−−−
C12 + C22 C12 + C22
同様にして,C2について偏微分し極値を与える条件から式(14)が得られる。