分子軌道法計算(T) HMO法

1. ヒュッケル分子軌道法の概要

1.2.3 ヘテロ原子の取り扱い

  ピリジンやフェノールなど多くの共役化合物は、炭素以外の原子(ヘテロ原子)を含んでいる。
このような系に対しては、クーロン積分および共鳴積分と呼ばれる経験的なパラメータαおよびβの値を、
結果が実測値に合うよう適当に定めることによって対応することができる。

 クーロン積分は 、

      α = α + hβ                (22)

の形で与えられ、原子の電気陰性度などから決められる。

 ヘテロ原子との間の共鳴積分は次のような形で与えられ、結合の強さなどに対応させて選ばれる。

      βC−X = kC−Xβ                  (23)

 パラメータの値は必ずしも決定的ではない。例として、Streitwieserによる値を表1に示す。

 表1 ヘテロ原子の積分パラメータ 4)

hkX−Y 
  C-C
0.9
 1.47Åのsp-sp結合
 C=C
1.1
 1.34Åの二重結合
=N-
0.5
C-N
0.8
 
-N<
1.5
C=N
1.0
 
>N<
2.0
 
 
=O
1.0
N-O
0.7
 
-O-
2.0
C-O
0.8
 
=O-
2.5
C=O
1.0
 
-F
3.0
C-F
0.7
 
-Cl
2.0
C-Cl
0.4
 
-Br
1.5
C-Br
0.3
 
-CH
2.0
C-CH
0.7
 

 1.2.4 ヘテロ原子モデルによる計算例

 ホルムアルデヒド(HCHO)を例にとると、

  h = 1.0, kC=O = 1.0 から、

  α'=α、α'=α+β、β'C=O = βとなり、

 永年行列式は、

    |λ   1.0 |
    |        | = 0                    (24)
    |1.0  λ+1.0|
となる。

これを解くと、λ = 1.618, -1.618 が求められる。

 エチレンの場合と同様にして、分子軌道
  ψ = 0.526φ + 0.851φ
  ψ = 0.851φ - 0.526φ
が得られる。

 分子軌道の係数をエチレンの場合と比較してみると、π電子が炭素原子から電気陰性な酸素に移動して分極していること、また反結合性軌道は、逆に炭素原子上に大きく分布しており、求核反応は炭素原子上で起こり易いことなどが理解される。

 ここで述べた単純Hückel法以外に、αとβの値を電子密度や結合次数の関数として表し、計算して求めた結合次数の値が収束するまで繰り返すω-Techniqueと呼ばれる方法がある。しかし、時間をかけて繰り返し計算を行なうのならば、PPP法などの、より近似を高めた方法を用いた方が良いとして、現在ではあまり用いられない。  


メニューへ